
総合商社の活動の範囲は拡がっている。ベトナム沖での海底油田開発、ハリウ
ッド映画への出資、通信販売のカタログ創刊、健康食品の卵の生産、ロイヤル・
ゼリーの販売、プールやアスレチックジムの運営、病院の建設・管理、美術館
への西洋絵画の納入等商社の業容は、あらゆる業種、あらゆる商品にまで多岐
に亘っている。従来、取扱商品の中心は、産業界に供給する原材料の輸入や機
械・設備類の輸出入業務で、一般の消費者には直接的に関連の薄い存在と思わ
れてきた。ところが近年は、こうした独創的なモノづくり、健康づくり、夢づ
くりといった新しい価値観の創出を視野に、消費者により近い分野への進出、
知識集約産業への転身を図っている。
関西で、「商社」や「商売」という言葉から連想する代表的なものは「近江商
人」である。
滋賀県近江は、古来水路交通の要衝であり、古くから商業が盛んであった。近
江商人は江戸、大坂、京は言うに及ばず安南(現在のベトナム、カンボジア)、
シャム(現在のタイ)など、海外にも雄飛していた。奉公人制度、帳簿の処理
方法がすぐれていたことも、近江商人の台頭を助けたといわれる。伊藤忠商事、
丸紅などはこの近江商人の系譜をひく企業である。
日本の総合商社は、大手9社のうち伊藤忠商事、丸紅、住友商事、日商岩井、
トーメン、ニチメンなど7社が関西から生まれ、呉服商や綿花の取り引き商、
台湾の産品の輸入商など、それぞれ違う分野から出発、次第に取扱商品を増や
して、最終的に今日の総合商社の姿となった。このように、商品の原産地と消
費者の間に介在し、市場環境を見極めながら商品を世に送り出してきた商社の
機能は、関西人の持つ、既成の固定概念に捕われない柔軟な思考とあいまって、
新しい商品、新しいビジネス体系を次から次へと世に送り出してきた。
商社の今後の成長の鍵は、多国間に連係するビジネスにおけるオーガナイザー
としての役割の強化や、海外未開拓分野への進出、さらに新規事業の開発など
である。この点では、すでに情報型産業といわれている商社の持つ企業経営の
ノウハウやソフトウェアを、いかにして新規事業に結び付けるかが課題となっ
ている。